[2010] 特別講座「電磁波について、今、何が問題か?」

日時 2010年7月3日(土) 14:00~16:30
場所 ひと・まち交流館(京都市下京区西木屋町通上ノ口上る梅湊町83番地の1 )

プログラム内容

講演 「電磁波について、今、何が問題か?」
講師 荻野晃也さん(電磁波環境研究所 所長)

2010-07-03-特別講座「電磁波について、今、何が問題か?」

講演抄録

【1】はじめに 

 「京都カナリヤ会」は「化学物質の問題点」などに長い間取り組んでこられていたと思います。
今でこそ「化学物質過敏症」が認知され始めてきていますが、当初は無視されていて、とても大変だったと思います。電磁波でも電磁波過敏症が問題になってきているのですが、全く無視され続けています。化学物質過敏症の方の多くは電磁波過敏症にもなっているそうです。電磁波は放射線の仲間ですから、被爆国である日本が「真面目に取り組んでいると思われるかもしれませんが、全く逆です。世界で電磁波問題を一番軽視しているのが日本だろうと思います。東アジアでも、韓国・台湾・中国の方が電磁波問題への関心が高いのです。

 日本では、科学的な論争に関しては、科学者も裁判官もメディアも極めて保守的です。
 日本経済の重要な技術的問題点に関しては、客観的・中立的な科学的主張をするごとには相当な「勇気」が必要なのです。その例を、小生の経験した原発問題や電磁波問題からも言うことが出来ます。また「電磁波問題はタバコ問題に似ている」と欧米では良く言われるのですが、タバコの危険性についての日本からの重要な研究は、タバコ問題が起きる以前になされた「吉田肉腫」(1943年)を除いて殆どなかった・・と言って良いでしょう。この日本ではメディアも「電磁波問題には触れたがらない」のですが、メディア自身が電磁波発生源ですし、広告などの大スポンサーが電力会社やNTTなどの巨大企業であることも大きいからでしょうか、危険性が確定するまでは報道しない」方針なのです。「被害の拡大に関して、どのような責任を取るのか」ということを考えようともしません。色々な公害問題でも経験したことですが、国民の健康問題を真剣に考えるという土壌が不足しているのです。特に電磁波問題ではそのことを強く感じます。 

【2】電磁波とは?

 電磁波とは「太陽光線の仲間」で、エネルギーの高いのが原発や原爆で知られるガンマ線などの「放射線 (電離・放射線)」で、エネルギーの弱いのが「電波」と呼ばれる「放射線(非電離・放射線)」です。勿論、紫外線も赤外線も電磁波の仲間で、粒子と波の両方の性質があり、電波領域では電気や磁気が波として空間を伝播していると考えることが出来ます。電磁波の影響を考える時には、これら全ての電磁波を対象にすべきですし、全ての電磁波が遺伝的毒性を示すと考える必要があり、エネルギーで分けるべきではないと思います。
 家庭内の電気は60(または50)ヘルツの極低周波でエネルギーが極めて弱く、波長は5000(6000)kmもの長さです。携帯電話やタワー、放送タワーのアンテナから放射される電磁波は、高周波と低周波が変調(混ぜ合わ)されたり圧縮されたりした、アナログ波またはデジタル(パルス)波の電磁波ですから高周波と低周波との双方の悪影響の可能性があります。この様な変調電磁波や波形や周波数などによって、電磁波の性質が複雑に変化することが知られています。

【3】身の回りの電磁波 

 私達の身の回りの電磁波の多くは極低周波で、高周波は電子レンジとケータイだけです。電子レンジにはマイクロ波と呼ばれる高周波の電磁波が使用されていて、物を温める効果があり、物質の中にまで入り込んで「熱集中(ホット・スポット)効果」を示します。太陽光線は皮膚の表面にだけしか入りませんが、紫外線になると皮膚の中まで、ガンマ線であれば身体深くまで透過します。極低周波の電界に比べると磁界の方が透過力が強く、人間の身体は電界から身を守るように作られているのかもしれません。しかし、電界であれ磁界であれ、最近の技術の進歩で身のまわりに充満してきたことが問題なのです。身の回りにある電磁波の単位は、全て「電界・磁界・電流」強度で表すことが出来ますが、高周波では電界強度ではなく「電力(束)密度」とエネルギー吸収比(SAR値)とで説明することにします。

【4】電磁波の影響問題:最近の研究から

 第2次世界大戦後、電磁波応用技術は最先端の技術であり、冷戦構造下でも最重要技術でしたから、その危険性を問題にすることは少なかったのです。しかし、1980年ごろから「送電線・配電線」から漏洩する極低周波・磁界が問題になり始めました。1979年に発表されたワルトハイマー論文が広く知られるようになり、それを追認する研究が増えて来たからです。このような場合の影響メカニズムとして、最初に発表されたのは「イオン・サイクロトロン共鳴」現象でした。細胞の中のイオンが螺旋状に運動することで影響が出るという説でした。一戸建住宅とマンションとでは、小児白血病の増加率に差があり、その理由として「静磁場の影響ではないかと思われて提唱された理論です。この説は有力ではありますが、確定したわけではありません。
 また、地球環境問題と関連して「オゾンホール」が問題になり、紫外線による皮膚ガンが話題になり始めました。強い紫外線を受けると人間の皮膚は黒くなります。紫外線から皮膚を守る為に、メラトニンの指令で皮膚にメラニンが出来るのです。つまり進化過程で電磁波の悪影響に対して克服できる手段を得ていた生物が生き残ってきたわけですが、ところが過去に経験していないような電磁波(紫外線)被曝には生体は対応できないのです。現在、急増加している新しいタイプの自然界にないような電磁波に生物が対応できるかどうかが問われていて、それこそが電磁波問題の本質なのです。

現在、一番関心の高いのは、携帯電話・電磁波の影響問題です。電磁波の影響メカニズムに関しては色々な提案がなされているのですが、決定はしていません。私の考えでは、免疫に関係していることは間違いないと思っています。電磁波被曝で遺伝子やタンパク質やホルモンなどが影響を受け、それが回りまわって色々な影響となって現れるのではないか・・と考えています。その背景には複雑な過程が存在しているわけですが、フリーラジカルや酸化ストレスなどが重要なキーワードになっている可能性が高いのです。この地球上に生き残っている生物には、長い進化過程で獲得した抵抗力がある為に、簡単には「メカニズムが見えない」のであって、決して「安全なのではない」と言えるでしょう。3ここ数年、プロテオミックスという最新鋭の遺伝子技術での研究も出てきていますが、皮膚のタンパク質発現が敏感に現れているようです。皮膚は外部から身体を守るバリアーであり、「第3の脳」とも呼ばれている重要な組織ですが、それが電磁波とも深い関係がありそうです。色々な研究の積み重ねによって影響が明らかになることを私は期待しています。

【5】電磁波の脳への影響

 電磁波が「人間や動物の脳に悪影響を及ぼすのではないか」と真剣に考えられるようになってきたのは75年頃からです。小さな磁石を体や脳に持つ生物が発見されたり、脳細胞からカルシウム・イオンの漏洩が発見されたりしたからです。特に重要だと私が思うのは自然界に存在する電磁波(「シューマン共振・電磁波」という)と「人間の脳波」とが深い関係がありそうなことです。また、カルシウムの漏洩現象が最初に見いだされたのは高周波に16ヘルツを混ぜた変調電磁波を鶏のヒナの脳細胞に照射した場合でしたが、その後も多数の研究が行われています。

 人間の脳内ホルモンである「メラトニン」「セロトニン」「ドーパミン」が電磁波被曝の影響を受けているとの研究も多くあります。「自殺や僻病との関係」も懸念されています。特に「メラトニン」は睡眠を左右するホルモンで、それ以外にも「ガンを抑制するNK細胞を活性化」「体の酸化を防止」「痴呆症を予防」「紫外線から身体を守る」と考えられ、進化と関係するホルモンでは?と主張され始めています。またメラトニンはカルシウムとも関連しているようで、「第3の日と呼ばれる松果体」から分泌されています。メラトニンの指令で皮膚にはメラニンが増加しますし、重要な機能を持だされている可能性が高いのです。卵子内での組織分裂の最後は「脳・神経と皮膚」であり両者は仲間なのです。最近では、染色体の先端にある「テロミア」の短縮がメラトニンと関係していることも明らかになっていて、寿命との関連も議論されています。「脳血液関門(BBB)が崩れる」との研究もありますし、パルス磁界で鯵病を治療するとかハトの脳に電極を埋めて自由に操作するといった研究も登場しています。ノイズを含めて電磁波が脳神経へ影響している可能性が指摘されています。そして今、心配されているのが子どもの脳への悪影響です。「子どもが切れやすい」「テレビ脳」「多勤性障害」などと電磁波被曝との関係が真剣に議論されています。

【6】人間の身体と電磁波

 人間の身体の細胞は、微弱な電気信号で動いているわけですから、電磁波と無関係なはずがありません。その場合の電気は、磁界ではなく電界なのですから電界の影響をも重視すべきです。人間では脳・首・背中・腹などの中心位置がブラスで、手足の先がマイナスになっています。その電位差は100mVぐらいです。動物の腕を骨折させますと、まず骨折した場所の電位が逆転してカルシウムで癒着が始まりつながると元の電位差にもどります。心臓が鼓動するのは約100mVの電位差ですし、カルシウム・イオンとも関係が深いのです。サンシ・ウウオとカエルの腕を切り落とした後の電位差を測定した研究がありますが、サンショウウオの方が電位差の変化が大きく、カエルと異なって組織再生が行われます。サンショウウオや人間の再生能力とガンの関係も味ある問題です。再生能力の高い動物ほどガンにかからなく、残念ながら人間では再生能力が限定されてしまっていますからガンになり易いのです。身体の中の電界強度を出来る限り低くして、身体の中での電気信号を働き易くしているのが皮膚の存在なのではないでしょうか?

一方、電界よりも磁界の方が身体に中に入り込みやすいことから、「電界は安全だ」という考えが広がっているように思います。しかし、身体の中の電界の侵入やバランスの変化は、生物にとっても危険なのです。人間の身体が微弱な電気で働いているのは明らかですから、今後、交流や直流の電界の悪影響の研究が増えてくると思います。特にパルス電界が問題になるように私は推察しています。最近、自然治癒が話題になってきていますが、その理由の一つには「交流電気から離れる」ことも含まれるはずです。また、電気ではアースがとても重要です。アースがないと電磁波も強くなりますし、ノイズも多く危険性が高まります。アースを取ったりすることは簡単にできることなのですが、日本の配線が経費節約のために2本にしていて、アース配線を考えなかったことが今になって問題になってきているのです。生命現象と関連の深い現象ものが、電磁波問題で重要な課題になってきているのですから、我々は 電磁波問題を自らの問題として真剣に考える必要があります。

【7】電気利用と電磁波問題 

 2010年5月末で日本のケータイ台数は11319万台(PHSを含む)、普及率も(一人1台として)91.7%で、いまや残る購買対象は小学生だそうです。
世界中では50億台/普及率70%にもなっていて、住宅の近くにもケータイ・タワーが乱立しています。戦後になって急増した電化製品やケータイなどで、電磁波・被曝は増加する一方です。

2009年になって、超低周波が精子に悪影響を及ぼすとの研究も話題になってきていますが、電力会社
「オール電化」宣伝に必死です。WHOが電磁波プロジェクトを開始した96年以降から日本では「オール電化」の大キャンペーンが始まりました。「電磁波の危険性」が一般に良く知られている欧米では「電気使用は控えよう」としているのに、日本では逆です。電磁波の規制値を厳しくしないために、世界の状況に逆行して電磁波被曝を国民に強要する政策を実施したいのではないか‥とすら私は考えたくなります。その結果がICNIRPの最新案(基準値をさらにゆるく)に盛られることになった理由ではないでしょうか。

 79年3月のワルトハイマー(米)論文以降、多くの研究がなされるようになりました。その中にはWHOの下部機関である国際ガン研究機構(IARC)と国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の発表した「0.3~0.4μT以上の被曝で小児白血病が2倍に増加」報告もあります。これらの報告を受けて、WHOもついに01年10月になり、「事実情報(ファクト・シート)」で「ガンの可能性あり」と発表し「予防的対策の勧告」をしました(朝日新聞01.11.5)。その後、幾つもの疫学研究が発表されていますが、特に重要なのが日本の研究です。日本の報告は03年6月に発表されましたが(「サンデー毎日」の03.7.20号)、小児急性リンパ性白血病で4.71倍、小児脳腫瘍で10.6倍の結果でした。送電線から50m以内での小児白血病は3.08倍に増加」との報告も含まれています。-方で、その結果を「信用できない」と批判をして、日本の政府は無視することにしましたが(朝日新聞03. 2. 6及び松本健造著「告発・電磁波公害」が詳しい)この報告書の内の小児白血病に関しては06年8月に著名な研究雑誌に掲載されましたから正しいと認められたわけですし、07年6月のWHOの「EHC238」も本論文を高く評価しています。08年12 月 に、厚生労働省の「がん研究助成金」による報告書が発表されましたが、「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」(主任研究者:津熊秀明・大阪府立成人病センター部長)では、「(リンパ腫に関して)送電線からの25m圏で統計学的に有意なリスク(O/E比2.67)を認めた」と報告しています。2010年には本報告の内の小児脳腫瘍の増加論文も英文で発表されています。何故日本のメディアは無視するのでしょうか?

《電磁調理器(IH調理器)》「オール電化」では「電磁調理器」と「床暖房」が目玉です。価格の低下と夜間電力の極端な値下げとで、「オール電化」が増え始めたのです。30センチメータの場所で50/60ヘルツで5~10μTの強い磁界が観測されますし3万ヘルツ周辺でも数μTになります。高調波という整数倍の電磁波も強く、10倍の高調波では30万ヘルツを超えます。「食品と暮らしの安全」(第156号:2002年4月1日発刊)によると、松下電器製など6杜の製品を調べたところが、周波数の高い方の磁界強度は、プレート上では1.2~107μTにもなっているとのことです。周辺最大値も12~41μTの強さであり98年の国際非電離放射線防護委践会(ICNIRP)のゆるい制限値の1.6~2.9倍にもなっていると発表しています。07年6月に新聞などでWHOのEHC238」が報道されたのですが、WHOの会議にも出席したことのある「国立成育医療センター」の斉藤室長が「妊婦は電磁調理器の使用を避けるのが望ましいだろう」と新聞紙上でコメントしていますが、一般には全く知られてはいません。

カリフォルニア州・衛生局の委託による「低周波磁界・被曝と流産リスクに関する疫学研究が発表されたのは02年でした。1.6μT以上の被曝で「流産したり、低受胎率の女性では、初期流産5.7倍」にもなっていることを示しています。その被曝も、常時被曝ではなくて定期的な被曝の場合なのですから、朝に料理する場合などに相当します。また「親のガス使用が心配だ」とばかりに、電磁調理器をプレゼントする孝行息子が多いのだそうです。ところが低周波磁界・被曝で「アルツハイマー病や痴呆症が増加」という研究が幾つもあることを孝行息子さんは知らないようです。送電線の近くでは「アルツハイマー病」が増加しているというスイスの大規模なコホート疫学研究が09年に発表されています。電磁調理器の電磁波の方がとても強いのですから、心配になるのが当然です。電磁波問題にとどまらず、地球環境問題の観点からも「オール電化」路線の見直しが必要です。電磁調理器の人気理由は「光熱費が安い」「掃除が楽できれい」「火災の心配がない」などだそうですが、誇大広告そのものです。08年10月には九電の誇大広告を公正取引委員会が摘発しています。「きれい」に関しても、ガスコンロに比べると「フードからの換気が不十分で室内に臭いが残る」し、「火傷が増えている」はずです。「火災などのトラブル急増」を理由にして経産省も火災実験をしていますし(FNN/フジTV系07.9.11)、08年9月には「火災発生」の防護策を勧告しています(朝日新聞08.9.6)。
 人間は火を使うことで進化してきたのです。火から離れるべきではなく、食や安全に関する人間の意識も低下するようで不安になります。

【8】高周波・電磁波の危険性

 ケータイと電子レンジで使用される高周波以外にも高周波・電磁波は沢山あります。ラジオ波・テレビ波などはケータイ電磁波よりも周波数が低いのですが、レーダ波やスカパーなどのデジタル放送波は高くなっています。ケータイが異常な早さで普及したこともあって、高周波全体での影響研究が色々と行われることになりました。その場合に良く使用されたのが24.5億ヘルツの電子レンジ・電磁波でした。まず動物実験で、行動異常、判断能力異常、奇形率の増加、脳重量の低下、染色体の異常、インシュリン分泌の低下などが報告され、マウスの精子の異常(米84年)やラットの小脳・網膜の変質(米88年)や脳組織に突然変異(米95年)なども発表されてきました。特に問題になるのは、ケータイなどで使用される変調電磁波の危険性です。今、世界中で話題になっているのが精子への悪影響問題です。レーダ操作員の精子異常の報告は70年代からあり、それ以来、現在までにケータイ電磁波を中心にして、実に60件もの論文がありますが、その多くは精子影響を報告しています。特に、徳島大学医学部の08年09年の「ウサギの精子が激減する」との論文は衝撃的です。精子中の果糖が影響を受けているようです。ケータイ電磁波の照射で、鶏卵の約半数が孵化しないという研究は、斉藤論文(日本96年)・シモ論文(仏98年)・バスチデ論文(仏01年)・グリゴリェフ論文(ロシア03年)などがあります。

つがいのシュバシコウ(コウノトリの仲間)の巣の中に「ヒナがいるかどうか」を調べた、バルモリ論文(スペイン)では、ケータイ基地局から200m以内では40%の巣にヒナがいなかったという報告でした。300m以遠では僅か3.3%だったそうですから、大きな相違です。ケータイ使用者と脳腫瘍に関係する研究は、WHO配下の国際ガン研究機構(lARC)は、13ケ国の参加を得へて「インターフォン計画」という大々的な「ケータイと脳腫瘍の疫学研究」を実施していたのですが、その一部を2010年5月18日に発表しました。その結果は確固たる悪影響はないようだが、10年以上のヘビーな使用は要注意かも」という曖昧な結果で、批判されています。08年以降でも、「ケ-タイ電磁波が睡眠に障害」「脳神経や脳波に影響」との研究、「人間の皮膚のタンパク質形成に異常が生じている」との最新の遺伝子技術を使用した研究などがあります。

 子供のケータイ使用で心配になるのは、ケータイ電磁波が子供の頭の中へ進入し易いことです。頭が小さいことと頭蓋骨が薄いこと、更に水分が多いことも関係していると思われます。また脳血液関門(BBB)の機能も子供の方が敏感なようです。心臓から回る血液の約5分の1が脳へ行っているわけで、その血液を綺麗にするために特別に備えられているのがBBBです。その機能が電磁波被曝で崩れていることを示した研究にはマイルド論文(1996)・フライ論文(1997)、更にスウェーデンのサルフォード論文が2003年に世界中で話題になりました。アナログよりもデジタル(パルス)が、そして若い脳の方が、危険性が高いようです(「科学」03年12月号に解説記事)。郵政省が「BBBへの影響なし」と発表したのは1998年9月のことですが、影響が出るとは思えないような短期間の照射実験でしたし、勿論、サルフォード論文以前のことでした。

電磁波問題の世界的な権威として有名なベッカー博士(米)は、子供の注意欠陥多動症(ADHD)も電磁波影響の可能性を指摘していたのですが、最近、驚くような論文が、08年7月にデンマークで発表されました。妊婦のケータイ使用と生まれてきた子供の行動異常を調べたコホート疫学研究です。妊婦13159人を対象にして、子供が小学校へ入る年A(7才)時に行動を調べた追跡研究ですが、「感情的・多動性」などの包括的に考えて行動に問題のある子供が出産前後にケータイ使用していた場合で1.80倍(95%信頼区間で1.45~2.23)と統計的に有意な増加率を示していたとの結果でした。最近になって、日本政府も欧米並みに子供のケータイ使用をひかえるよう勧告をしていますが「誘惑やイジメなどから子供を守る」ことを目的としていて、電磁波の危険性を心配しているわけではありません。その点が欧米との大きな相違です。子供の使用を禁止していると言って良い国に、フランス・フィンランド・カナダ・イスラエルなどがあります。TVのポケモン事件(1997年)で影響の強かったのも子供で、毎秒15回の点滅光が脳神経に影響したのです。

【9】電磁波過敏症の存在

 電磁波に過敏な人である「電磁波過敏症」の存在が見いだされたのは1980年代で、米国のレイ博士が命名したのが1990年でした。博士はダラス(米国)にある「環境医学病院」の院長であり、国際会議も開催しておられます。世界中に多くの患者が存在していて、増える一方です。今までには17件の報告があり、しかも増加傾向を示していて、対数目盛での増加傾向がこのまま続けば2017年には50%になるとの警告論文も06年に発表されています。女性の方が多いようで、心臓圧迫・ストレス・精神不安・頭痛・睡眠障害などに悩んでいます。北里大学が中心に進められていた研究報告書が07年1月に厚生労働省のホームページに公開され、日本で始めて電磁波過敏症患者のことが紹介されました。電磁波過敏症の存在を認知しているのはスウェーデンだけですが、英国にも動きがあります。WHOも電磁波過敏症に関する国際会議を開催していますが(04.10)結論合意にいたらず、WHOのファクトシート( 05.12)では「存在は認めた」が、多くの人は「思い違いしているようだ」との報告内容でした。診断方法がはっきりとしていないことが問題なのです。電磁波過敏症を認知すると、基準値を大幅に低くする必要性が生じます。

【10】電磁波から身を守るには

 低周波の電磁波から身を守るには、①発生源を弱くする、②発生源から距離を取る、③途中で減少させる(遮蔽する)、などが考えられます。この方法は、電離放射線に対する防護方法と同じです。また発生源が低周波か高周波かでも対策が異なります。低周波の電界の遮蔽は容易ですが、問題なのは磁界の遮蔽です。また被曝時間も問題になります。定期的な被曝か、夜間の被曝かも重要です。住宅内で電磁波の強い場所は、①電源ブレーカ、②台所の電化製品、③電化製品の裏側、④電気毛布・電気カーペット・こたつ・電子レンジ、⑤モータの部分、⑥IH電磁調理器や電気・床暖房、⑦壁の中の配線などです。磁界強度は電流に比例しますので、100ボルト中心の日本の方が問題です。日本で、欧米なみの低減化製品だといって良いのは、VDT(コンピュータ用端末装置)だけで、最近になって、電気毛布や電気カーペットなどで、一部のメーカーに対策強化・製品開発の動きが見られ始めています。電気を多く使用すれば確実に電磁波は強くなります。電灯線も、少し注意して配線するだけで被曝量が低減します。送電線からの電磁波低減も行われ始めているのですが、一番大切なことは民家から離すことです。特に子供たちの集まる様な所は、厳しい規制をすべきです。

 高周波は電子レンジの窓にあるような網目金属でかなり遮蔽が出来ます。アルミ箔でケータイを包むと通信できません。放出する強度は、ケータイ>PHS>コードレスですが、①距離を離す(イヤホンを使用)、②使用時間を短く、③電波の弱い所では使用に注意、④アンテナを頭から離す、⑤使用しないときは電源を切る、⑥近くの反射物に注意する、⑦遮蔽する、などが大切です。高周波は遮蔽が容易ですが、遮蔽材が高価なのが残念です。遮蔽カーテン・遮蔽ガラス・遮蔽壁紙・遮蔽建材・遮蔽スーツなども登場していて良く売れているそうです。

【11】電磁波問題の動向

 WHOは07年6月「EHC238」を発表しましたが、小児白血病の可能性を正式に認め、予防的対策を求めています(毎日新聞07. 6. 2、東京新聞・日経新聞07. 6. 18)。しかし、WHOは基準値の決定を放棄し、国際非電離放射線委員会ICNIRPが決めることになりました。純粋に健康問題として考えるべきことが、放射能の場合の国際放射線防護委員会ICRPの場合と同じように、政治的・経済的な問題になってしまったと言えましょう。

電力線に関してスウーエデンは93年から0.2~0.3μTと同程度の対策を実施していますし、電磁波過敏症も認知しています。スイスは1μT以下を法制化しており、イタリア環境庁は学校・幼稚園に対しては0.2μTの提言をしています。オランダやアイルランドなどでは学校は0.4μT以下になるようにしています。日本には3kv/mの電界規制があるだけで磁界はなかったのですが、07年6月1日より委員会を組織して規制を検討し始めました(朝日新聞07. 4. 26、毎日新聞07. 6. 2)。

しかし、そのメンバー内の専門家は「電磁波は安全」と考える人たちばかりで僅か5回会合で答申し、現在、最終段階に入っています。その基準値も1998年のICNIRPのガイドライン」を取り入れ、100μT(50ヘルツで)のゆるい値にして、「省令」で決めるとのことで、電力会社は大喜びしていますが、反対運動があって、ストップ状態になっています。ICNRPの値は、ICRPの放射能規制と同様に「被曝限度値」であり、「これ以下にしなさい」というし上限値なのですが、日本では「これ以下は安全」と読み替えているのです。WHOが「EHC238」で「小児白血病の可能性を認めた」ことで、すでに危険だと考えているEU諸国は、ケータイ電磁波も含めて大幅に厳しい値を採用するのではないでしょうか。その作業を08年10月からEU委員会は開始しました。09年4月のEU議会・決議文はそれを支援していますし、米国オバマ政権も環境重視ですし、9月には米国議会で公聴会が始まっていますから、今後は日本の孤立が目立つのではないでしょうか。日本では国民の関心の低い問題には緩い規制が行われてしまうのです。

20世紀になって問題となった環境悪化に対処する思想として「アララ(道理にかなって達成可能なほど低く)」「慎重なる回避」「予防原則」がありますが、21世紀のみならず今後1000年間を考えた時のキーワードとして最も重要なのが「予防原則」思想です。「科学的に不確実性が大きな場合のリスクに対応するため」の原則であり、危険性が十分に証明されていなくても引き起こされる結果が取り返しがつかなくなるような場合に予防的処置として対応する考え方です。92年ブラジル「環境サミット」の「第15宣言」にも盛り込まれ、ミレニアム年の2000年2月にEU委員会は「環境問題は、今後、予防原則を基本とする」ことを決定しています。フランスは05年3月「予防原則」を憲法に取り入れています。「危険な可能性がある限り、安全性が確認されるまでは排除しよう」の流れが世界中で広がっています。その典型例が「地球温暖化問題」なのです。

また環境ホルモンでも問題になっていることですが「女子出産」や「精子減」などは、以前から電磁波分野で話題になっています。日本の死産児の内、男児の割合が70年代から急増し、今では女児の2.23倍にもなっています(サンデー毎日02.4. 16、「YOMIURI. Weekly」03. 5. 22)。更に妊娠初期の12~15週の死産に限定すると10倍です(朝日新聞04. 6. 4)。西ドイツや米国ではそのような変化を示しておらず、最近になって「50/60ヘルツの併用が問題では?」と私は考えるようになりました。生殖に取っても重要なカルシウム漏洩が問題だからです。

いずれにしろ「電磁波の危険性が100%確定した」わけではありませんが、問題なのは「安全性が確定していなかった」ということが重要なのです。それも最近になればなるほど色々な悪影響研究が増えてきているのですから「危険な可能性が高い」と考え、EU諸国が実施し始めているように子供や胎児の立場を重視して「予防原則」思想で厳しく対処する必要があると私は考えています。


【参考文献】拙著(共著・監修を含む)
「ガンと電磁波」(技術と人間95)、「高圧線と電磁波公害」(緑風出版99)、「ケイタイ天国・電磁波地獄」(週間金曜日00)、「携帯電話は安全か?」(日本消費者連盟98)、「死の電流」(ブローダ著緑風出版99)、「電力線電磁場被曝」(ブローダ著緑風出版01)、「携帯電話」(カーロ他著集英社01)、「電磁波汚染と健康」(シヤリタ著緑風出版04)、「電磁波の健康被害」(チェリー著、中継塔問題を考える九州ネットワーク編05)、「健康を脅かす電磁波(緑風出版07)、「危ない携帯電話」(緑風出版07)